地獄インマイヘッド
let me dive in my brain...

Tuesday, February 28, 2012

『原発がどんなものか知ってほしい』は、素人がまとめた文章だが、 一般の人が原子力にどんな不安を感じているかを、歪んだ形で、端的に示している。 その意味で一つの「真実」だ。

それに対する『Re:原発がどんなものか知ってほしい』(EiFYE(エイフィー)原子力発電所FAQ特別編)は、実際に原子力発電所でプラントを運転していた電力会社職員が、個人のウェブサイトで公開したもの。

「職員が会社と無関係に個人サイトで原子力について語る」こと自体、 少なくとも当時としてはユニークで、インターネットの良さ、新しい時代を感じさせた。 原子力発電への偏見・風当たりの強さ、そうした悲しみが、 彼を強く、優しくさせたのだろう。 穏和で誠実な筆致で、辛抱強く、ひとつひとつの疑問に答えていた。

『原発がどんなものか知ってほしい』について

「原発がどんなものか知ってほしい」は知る人ぞ知るネット上の怪文書だ。

この文章は、読者を二重に混乱させてきた。 第一種の読者は、書かれていることを普通に信じてしまう人で、 ブログで共感の日記を書いたりするのだが、 事実を知る人からコメントがつき自分も確認して恥をかく…そんなことが繰り返されている。

第二種の読者は「この文章は平井という人が書いた反原発プロパガンダで、 内容は間違いだらけ」と認識しているが、それもちょっと事実と違う。

誇張された講演に素人が尾ひれ

この文章を掲載している反原発の会ができたのは2000年、 著者とされる平井は1997年までに亡くなっているから、 このウェブ文書を平井自身が執筆した可能性はない。 平井自身は、不治の病で気持ちが動転している面があったにせよ、 現場を知る技術者であり、 それほどめちゃくちゃなことは言っていないはずだ。

技術者が「放射能でロボットが狂う」だの「原発の建物の物はすべて放射性物質に変わる」といった幼稚なうそを、 公の講演で言うはずがない。 他方、現場ならではのリアリティある記述も多く、平井自身は門外漢ではない。 幼稚な間違いと現場のディテールの混在は、 複数の人間がかかわって成立した文章だと考えることで、最も合理的に説明できる (「平井は精神病で、認識が混乱していた」などの特殊な可能性は除外する)。

結論だけ言えば、

  • この文章は平井の講演に基づいている。 平井は自ら告白しているようにアルコール依存症らしく、 自分が病気になったのはすべて原発が悪いのだという短絡的考えが根底にあるようだが、 講演の内容自体は、現在の文章ほどでたらめではなかった。
  • 講演会を主催した科学的知識に乏しい反原発の人が、 自分なりの勝手な解釈を加え、平井が誇張した表現にさらに尾ひれをつけた。
  • 尾ひれのついた伝言ゲームであるにもかかわらず、 すべて現場を知る人の直接の発言であるかのように表示したため、 混乱と偽のインパクトが生まれた。

「去年(一九九五年)」「二月(一九九六年)に」という表現から、 オリジナルの講演の時期は1996年春~1996年末のいつかだ。間違い方の程度から見て、 文章化した人は、基礎的知識がなく「不安」という先入観に支配されている。 もとは縦書きだったようだ。 素人が数名を相手に刷っていたミニコミ紙のたぐいか。

こういう活動それ自体は、良いことであり、応援したい。 結果的には間違いだらけで、基本的な調査を怠るなどアプローチがまずいが、 それでも、世の中のことに無関心でいるより、自分なりの意見を発表しようとする態度自体はりっぱだ。

追記: http://www.janjan.jp/living/0501/0412292132/1.php によると、 「原発がどんなものか知ってほしい」は 故人である平井氏が生前語った話を「PKO法『雑則』を広める会」の佐藤某たちがまとめたものだという。 予想通り、本当の筆者は平井氏ではなかった。 内容の程度については、上記のようなあまり信頼されているとも思えないメディアであってさえ、 良心がうずいたらしく、 「編集部注」で、現場を知る平井氏本人の文だというのはうそであることを補足している、という点からも、 推測できる。暇を持て余しているなら、実際に読んでみれば、どれほどめちゃくちゃかは、 素人でもすぐ分かる。わたしは、中立ではなく、現在の原子力発電や東京電力のやったことにはっきり反対する立場であり、 特にごまかしや隠蔽には強い嫌悪を抱くのであって、 反原発の立場からも、このような、著者名すら偽りであるねつ造資料「原発がどんなものか知ってほしい」の存在は、 混乱を招き、かえって反対運動への信頼を失わせるものだと考える。 ただし反対する立場といっても「今すぐ原発を止めろ」といった非現実なことを言うわけではなく、 変えていかなければならない部分がたくさんあるし、 今の原発がエネルギー供給の完成型とは思えないということである。 特に、天然ウラン資源がこのままでは100年ももたないという事実に即して、 現状では駄目だと主張するのである。 賛成か反対かという単純な二分法ではない。 既存の原子力発電所を叩くことは、エネルギー問題の解決に少しも寄与せず、それこそ無駄なエネルギーである。

原子力発電にどういう意見を持つかは個人の自由だ。反対することは少しも悪くない。 少なくとも部分的には懸念や不安があるのは、当然だろう。 ただし「この文書を根拠に」反対するというのは、問題がある。 反対するのがいけない、という意味ではない。 反対するのはいいのだが、この文書を持ち出すのはやめた方がいい。

 
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